料理との距離

料理を作るという仕事から少し離れていることで、

今まで見えなかったものが見えたりする。

腕が鈍らないよう自分の食べる分は作ったりするけど、

お客様のことを考えて作ることをしなくなった。

基本的には、料理を仕事として位置付けてしまうタイプ

なので、家ではあまり進んで作る気になれない。

それに料理作る人あるあるだと思うけど、

自分で作ったものは、味見をするからなのか、

全行程に携わっているからなのか、

しっかり食べたいという、ワクワク感はない。

自分以外の人に作ってもらう料理の方が、

楽しみで美味しく思えるのは、不思議な現象だ。

好きな人に作ってもらったり、

信頼できる人に作ってもらったりすると、

やっぱり同じレシピでも違うものができる。

気持ちや愛情、その他いろんな要素も加わって、

複合的な奥行きができるから、料理もひとえに

大きな口では語れないほど深いものだ。

おふくろの味、という概念があるのは、幼少期の

純粋な感性が記憶に定着させるものでもあるけど、

愛情こそが大きな部分を占めていると思っている。

自分の作った料理にワクワクしないのは、

愛情と大きく関わってるかもしれない。

料理だけではなく、相手に喜んでほしいという気持ちは、

目に見えないし、数値化できるものではないけど、

思っているだけでもちゃんと伝わるもの。

その相手は不特定多数よりも、顔のわかる人の方が

より深く届くような気がしています。

こうして料理から離れていると、誰の役にも立てていない

ことに、存在価値がないように思えてしまうけど、

距離をとってこそ、その対象の有り難みや慈しみに

気づけることもある。

失ってからはじめてわかる大切さのように、

実家から出てみてはじめてわかる親の大変さのように。

意識して距離をとることもきっと大事なこと。

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