食べる劇場

カウンター越しの視線を背中に感じながら、しかも

手元が全部見えるくらいの高さに位置している椅子で、

調理を進めていくというのは、まあ緊張する。

物理的な距離においても、他のカウンター業界のお店に

比べると、けっこうな近さだなあとあらためて思う。

かっこ悪いところは見せられない。

無駄のない動きで手際よく見せないといけない。

段取りの手順と、優先順位の意思決定と、

動線のイメージと、パスタを茹でるタイミングと、

臨機応変な対応ができる余白と、時おり交わす会話と、

マルチタスクを同時進行でやらなければならないのが、

イートインの難しさであり、サービスの真髄でもある。

そんな大げさなものではないくらい小さいお店だけど、

お客様が何を求めているか、表情や仕草、会話に耳も

すまし、その場の空気感を見て想像し判断していく。

久しく感じていなかった感覚が呼び起こされる。

小さい脳みそはフル回転だけど、

目の前で出来立てのお料理を召し上がっていただいていて

同じ時間、同じ空間を過ごす体験はまさにライブで、

瞬間でしか味わえない生っぽい感触は、

料理そのものでもあり、食事の原点だと感じて仕方ない。

それにダイレクトにもらえるレスポンスである

「美味しかった」や「ありがとう」は、

料理をしてるすべての人が救われ、励まされ、

やりがいや生きがいにもつながる魔法の言葉だ。

人見知りな性格が、お客様と接する時間を

極力少なくしようという理由もあってテイクアウトを

始めたのに、今になってこれからはイートインこそが

食事のあるべき姿だと声高らかに言い張り、

少しずつ時代の変化で考え方も価値観も変わってきた。

表出するものは点でしかないけど、テイクアウトを

経験したからこその線であることが大事なのだ。

きっと、たぶん。

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