きっと遅咲き

どんな大人になりたいかなんて、あまり何も考えずに

レールの上を進むように、大学を受験して建築家に

なることを志した。

当然のようにアルバイトを始めたのが、

元町の地下にあった昔ながらの純喫茶のようなお店。

車椅子のお婆さんがオーナーで、面接の時に言われた

一言が今でも脳裏に焼き付いて離れない。

「あなたは遅咲きの人生ですね」

どうしてその言葉だけを覚えているのかが、

不思議で仕方ないけど、エネルギーに満ちていたのか、

今でも思い出すし、どこか心の支えになっている。

咲いた様子も、咲く気配もまるでないけど、

まだ可能性があると信じさせてくれる言葉である。

そしてなぜか土日は、オーナーが震災後で大倉山の

仮設住宅に一人で住んでいたので、朝迎えに行って

車椅子を押したり、定食屋で朝ごはんを一緒に食べたり、

介護みたいなこともしていた。

初めての働くという経験を通して、いろんな事を学んだ。

自分の作ったものをお客様に食べてもらう体験、

いいことも悪いことも反応が直接返ってくること、

社会に出るということ、淡い淡い恋もした。

それが楽しくて働くことが楽しくて、夢中になっていたら

オーナーにひと癖あって辞める人が多かったので、

18歳にしてお店を任されるまでになってしまった。

これらの体験がきっかけで、料理の道に進む決意をした。

周囲の反対を押し切り、大学を中退して専門学校に行く

ために1年みっちりお金を貯めるために働いた。

今でも幸いに同じ世界で料理を続けている。

時代もずいぶん変わってしまった。

これからの時代に、料理の在り方が問われる今、

自分に果たして何ができるんだろうと考えさせられる。

いつ花が咲くのだろうかと待ちわびながら。

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