唐突に常連様から、今日で利用するのが最後になる、
と言われた。
その理由を聞けば、転勤でということ。
知ってる人ともう会うことはない不思議な感覚。
世界にはこんなにもたくさん人がいるのに、
生きてるうちに関われるのはごくわずかな人たちだけ。
友人、恋人、夫婦、仕事、家族、様々な関係性の中で、
出会いと別れを繰り返し、みんな歳を重ねていく。
だれかとだれかの人生が互いに交わり、
ひとつになったり、違う方向に進んだり。
そう思うと今お店と関わりのあるお客様は、
偶然のような必然のような貴重な存在。
個人がやっているようなお店は世界にひとつしかない。
基本的に料理はその場で食べるものだから、
実際にその場所に行かないと食べれない。
そのような物理的な制約があるから観光地でないかぎ
りは、いかに近隣の人に利用してもらうかが大事にな
ってくる。
美味しいを大前提に、期待に応えて、時間をかけて、
信頼関係を積み上げていく。
できる範囲で顔や名前を覚えて話の続きをする。
お店をするということはただ料理を作るだけでなく、
相手の人生にも関われるとても人間的な仕事。
とはいえ、とどまる人、流れていく人、
それぞれの人にいろんな理由があって、
目の前の出会いは常に入れ替わっていく。
食事は頻度が多いからひとつひとつを鮮明に覚えてる
ことはないだろうけど、ストーリーとして関係性まで
を含めた背景は確かな記憶。
地球から見れば、小さな点に過ぎないこの街で、
ぼくの人生とお客様の人生が交差したのは、
すごい確率で起きた大切な出来事。
いい思い出になっていると、とてもうれしい。