褒められると気持ちがいい。
存在を認められると気持ちがいい。
これはだれにとっても普遍的な欲求だと思う。
料理を作って相手に食べてもらう。
この行為はダイレクトに、スピーディーに反応が返ってくる。
料理人にとって「美味しかった」は魔法の言葉。
たったその一言で、かけた時間も、思った感情も、報われる。
自分が作った料理を認められるということは、やりがいになるし、生きがいにもなっていく。
お客さんと料理を通して心を交わす。
食べたら消えてなくなる料理だけど築いた関係性はなくならない。
食材を扱うということは、自然を扱うということ。
文化は生きるために必要のないものかもしれないけれど、食文化だけは誰にとっても身近に関わりのあるもの。
頭も身体も五感も駆使して美味しいを追求する料理は奥が深い。
だから料理は素敵な仕事だと言いたい。
人はだれしも表現したい欲求を持っている。
自分のことを知ってほしいと思っている。
この世界は言葉をうまく使える人が有利な社会になっているけれど、言葉をうまく扱えない人は違う手段でコミュニケーションを取ろうとする。
絵を描いたり、音楽を奏でたり、料理を作ったり。
そう思うと、すべての手段が、すべての表現が、だれかと関わることを目的としている営みではないだろうか。
お店とはまさに関わりの起点になる場所。
老若男女どんな人も、貧富の差も関係なく立ち入れる間口のひらかれた場所。
たとえ小さなお店でも、たとえ小さな出来事だとしても、きっかけをつなげる役割を果たしていると言える。
それをなくしてしまうことは不甲斐のないことだけれど、きれいごとだけではやっていけないことも痛感した。
それでも料理の奥深さには趣があるし、お店の存在は人間にとって大切なことだと信じているから、また違う方法でその魅力を伝えていけたらと思う。