メイキング恵方巻

動き出したのは深夜の0時。

和食屋さんでもないのに恵方巻を作ることが恒例行事となりつつある節分を今年も迎えた。

お店を閉めてもなお自分の作る料理を食べたいと思ってくれるお客様の存在には感謝しかない。

恵方巻を作ることで金銭的な利益が得られるのはもちろんのこと、どこかで自分の存在を忘れられない程度に示しておきたいという気持ちもあったりする。

料理人としての具体的なビジョンはないけれど、自分に“お客様がいる”という事実、今まで築いてきた関係性を終わりにしたくない、と思うのは、欲深さなのだろうか、未練がましいのだろうか。

これからの働き方として、生き方として、その辺はまだまだ自分の中に答えが出ていない。

 

今年はもうお店がないのでお客様の自宅まで配達することにした。

というかそれしか方法がなかった。

街並みを車で走りながらコロナ禍に配達していたことを懐かしんだ。

お客様の希望時間を叶えながら綿密に配達ルートを組んでいく様がパズルみたいで楽しかった。

小さい移動で済むこともあれば、大きく移動することもあって、日曜日の道路状況が幾分心配だったけれど、行ったり来たりしながらも、かなり正確に予定通り回れたことにひとり高揚した。

 

準備は前日から始まる。

食材を揃えるのにも何軒か回らないといけない。

調理器具も何が必要か考えないといけない。

違う場所で仕込みをするので忘れ物があってはならないから、準備は用意周到にしないといけない。

ローストビーフに火を入れたり、野菜を切ったりマリネしたり、寿司酢を作ったり。

お弁当を作るよりもメニューがひとつなのでまだやりやすい。

ひと通り後は巻くだけまで準備を整えて、家に帰り夜ごはんを食べて、お風呂に入って、少し仮眠をする。

 

深夜の0時にキッチンへ戻り、炊飯をしてその間に寝かせたローストビーフを切ったりして、いざ巻ける状態までスタンバイする。

ごはんが炊けて寿司酢と合わせれば、そこからはひたすら巻き寿司を作っていく耐久レースだ。

静かな夜に雨の音だけが小さく聞こえてくる。

それぞれ仕込んだものが最後の方で足りなくなったら駄目なので、分量を本数で割った一人前の分量を計りながら巻いていくので、わりと時間がかかってしまう。

途中で数回ごはんを炊いたりしながら作業するので、出来上がりは平均して1時間で10本程度。

丁寧に作ってしまうからきっと遅い方だと思う(誰とも比べたことがないからわからないけれど)。

全部巻けた時、もう外は鼠色に明るい。

そこからフィルムをして、箱に詰めて、シールを貼って、紐をする。

車に積んでいざ出発。

8時間かけて配り終え、帰ったのは19時を回っていた。

 

お客様に料理を提供する。

単発にせよ労働時間にしたら濃いブラックだ。

大変だと言うつもりではない。

それでも作りたいと思えるくらいお客様の存在がありがたいし、その期待に応えられることがうれしい。

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