本を読み始めるようになったときから、それなりに村上春樹の全作品は追ってきた。
独特な世界観と、リズム感のある文体と、妙味なセリフの言い回しは、今の自分のアイデンティティにも少なからず影響しているように思う。
個人的見解だと、今でも多くの人に支持されている理由は、社会でどんなに表向きはいい顔をしていても誰もが抱えている見えない孤独感や喪失感に共鳴しているからではと予測している。
それだけ人間なんて所詮みんな寂しがりで、その部分を人それぞれ何かしらの欲望で間に合わせているだけの人生なのでは、というふうに。
ー
どの作品も現実なのかそうでないのか、たいていパラレルな世界が登場して主人公は行ったり来たりを繰り返す。
変わった人が話しかけてきたり、不思議な生きものが現れたり。
でも気づいてみたらどちらの世界も自分自身だったりと、自己と対話することが大きなテーマになっている。
潜在意識というか深層心理というか。
そう偉そうに言えるほどのファンでもないけれど。
ー
そんな世界観がライトにまとまった本作は、ちゃんと今までを通底しているワールドがあって読みやすくて好きな感じだった。
はじめて女性が主人公の作品だと話題だったが、女性読者はまるで自分のことのようだというレビューも拝見した。
文学はときとして登場人物に自分を重ね合わせ、その世界に没入する感覚を味わう。
だから物語はおもしろい。
そして人は物語から逃れられない。
結局、何かを信じることでしか息ができないように。
ー
悩みやコンプレックスは、人生うまくいってそうな人でも意外とみんなそれそれに抱えている。
孤独や喪失、そんな葛藤を乗り越え、成長していくことの喜び。
隣の芝は青いようで自分の芝の色に気づいてなかったり。
灯台下暗し、ないものねだり、大切なものを失ってから気づく鈍感さ。
わかっていてもやめられない、見て見ぬふり、周りにどう思われているか。
賢いのか、愚かなのか、欲望への従順さには抗えない。
人間の本質が見える、あるいは、生物としての与えられた宿命。
文学のおもしろさはそれが垣間見えることにあるのかもしれない。


