そこにしかない匂い

降りたことのない駅を出て、知らない街を歩く。

まだ知らない世界の隅々にまで人が生活していて、

あらためて人間ってたくさんいるんだなあと感じた。

目的地までの道すがら、何気ない景色の中に、

なんてことない普通の公園が見えてきて、

強い花の匂いがしたので、誘われるようについていくと、

そこには決して大きくはない藤棚が、

存在を主張するように咲き誇っていた。

広がる紫色が、異質なほどに目立っているのに、

街の人にとっては当たり前の風景なのだろう、

一人関心を寄せてるのはぼくだけだ。

藤棚に潜ってみると、蜜蜂の羽音がする、

芳香が漂う、勢いよく春を全身で感じる。

インターネットで匂いは届かない。

インターネットで五感は動かせない。

目的地というのは、

小さなお店を営んでる人にお話を聞きに行くため。

なかなか表立って、人と人とが話をするのに、

対面で会うことができない状況だけど、

オンラインでは得られない情報がたくさん存在している。

表情、身振り手振り、距離感、空気感、間合い、

超高性能な人間が身体でキャッチする情報は、

コンピュータの比ではないくらいに計り知れない。

いくら便利になってる世の中とはいえ、

不便で快適ではない価値は確実に存在する。

それは人間を人間たらしめている価値だと信じている。

でも価値観は時代の変容と共に変わっていくのも事実で、

どうなるかはわからないし否定もしないけど、

自分の納得のいく、居心地がいいと思える場所に

これからも存在していたいなと思う。

ー 

匂いはその場所に行かないとわからない。

音や景色や感情もそこでしか感じ取れないものがある。

その感覚に浸れる世界の方がやっぱりいい。

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