たまにお客様に前職のことを尋ねられることがあって、
当時勤めていた年代や店舗を詳しく話したりすると、
以前にも自分の料理を食べていた可能性があることが
わかり、なんだか不思議な気持ちになる。
巡り合わせとか、引き寄せとか、そういう類いのことに。
料理ってそれくらいの吸引力がないとも言い切れない。
味の記憶、舌の記憶、あの時のあの味が忘れられない、
なんてことも実際に起こりうるだろう。
自身の体験で忘れられないような味に出会ったことは
ないけれど、作っている立場からして美味しさというのは
相手のことをどれだけ具体的に認識しているかどうかで
受け取られる味も変わるものだと思っている。
顔も名前も知らない人に料理を作るより、
誰に食べてもらうかを想像しながら料理を作るのでは、
同じ手順だったとしても味は変わる。
母が子に作っていた料理が”おふくろの味”となるように、
誰かを想って作るからこそ、そこに愛情と記憶が残るのだ。
科学ではまだ解明されていないけど、自分が心に思ってい
ることは自然と相手に伝わっている。
きっと料理は口にする分、より伝わりやすいのだろう。
だからもちろんいい加減な気持ちで作ってはいけないし、
相手のことを想像しながら作らないといけない。
そんな気概でやっているから、顔も名前もできる範囲で
覚えようと意識はしている。
この先どこでつながるかわからないけど、何年もたって
また味覚が再会するなんて、とても神秘的で不思議なこと。
