悔しかった思い出

12月と言えば飲食業界にとっては最も忙しいハイシーズン。

一年の締めくくりやイベント効果もあって気も大きくなり、

お客様もついつい出費が増えてしまうことでしょう。

今はコロナでそんな風景も変わりつつあるけど、20年以上

もこの業界に携わっていると12月は自然と身が引き締まる。

その背景には料理を始めた頃の悔しかった思い出が、

より色濃くそうさせているのかもしれない。

あれはたしか二十歳の時。

神戸の別に有名ではないイタリアンレストランでのこと。

まだ時代的にも、クリスマスといえば恋人同士にとって

最大級のイベントで、クリスマスディナーといえばいかに

美味しくてお洒落なお店を選ぶかが男性にとって人生最大

のミッションだった。

それほどまでにいわゆる”クリスマス”といった形式的な

見栄というか建前のようなものが尊重されていた時代だっ

たと思う。

そんなキラキラした雰囲気をよそ目に、レストランの内側

ではヒリヒリとした緊張感が高まっていく。

よくケーキ屋さんがその時期は徹夜で働いてるなんて言わ

れるけど、同じようにレストランのディナーも寝れないと

先輩から聞いていたので、すごく気合いが入っていた。

仕事を始めたばかりの若造なので、いろんなことが未知の

世界でどれだけ話を聞いていても、経験していないことだ

からやっぱりわかるはずもなく、体調のコントロールもま

まならず、恐らく極度の緊張で当日に熱を出してしまった。

小さいレストランに決して人員の余裕があるわけではない

ので、フラフラになりながらも営業に挑もうとしたけど、

シェフに帰っていいと言われて帰らざるを得なかった。

どれだけ迷惑をかけただろう、スタッフにもお客様にも。

あの時の悔し涙は、毎年この時期になると思い出す。

でもその記憶が逆に姿勢を正してくれる。

人は誰かに迷惑をかけてこそ強くなり優しくなれるのだ。

こんな仕事をしているので本格的なクリスマス気分なんて

今まで味わったことがない。

分別のつく大人になって今さら味わいたくもないけれど。

かろうじてネットにあった当時のお店。ちなみに安藤忠雄の作品。

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