遠くまで届ける

新しい試みとして、店舗以外でのランチボックスの販売が始まった。
コンビニなどに並んでいるように、いわゆるお弁当は箱に詰めた状態で販売するのが主流で、今までイベントの時以外はそのような売り方をしたことがなかった。
なぜなら、いい状態で食べてほしいという気持ちを優先させていたから。
冷たい料理は冷たく、温かい料理は温かく、料理を作るほとんどの人がそう思うだろう。
お店として何を優先して何を大切にするか。
それは人それぞれだし、多様であっていいし、柔軟に変化していっていいとも思っている。
作りたての料理を優先するなら、テイクアウトという形態がそもそもナンセンスだし、たくさん作れないのでお客様のもとに届く量はどうしても限られてしまう。
反対に、多くのお客様に届けようと思ったらどうしても作り置きにせざるを得ない。
こんな葛藤はお店を始めた時からずっと反芻している。

でも意外とこちらが思うほどに、お客様はそこまで作りたてであることを気にしていない、と長い時間をかけて見えてきたこと。
やっぱり今は早くて便利な方が重宝される。
だからといってずっと大切にしてきたこだわりを捨てたわけではなくて、品質を守るためにも出荷できる量は上限を決めているし、メニュー構成にも最大の注意を払うようにしている。
現に通常メニューのランチボックスは予約制にしているし、作り置きをして常温で放置するようなことはしていない。
一昔前なら今回の試みには至ってないけれど、今の気持ちとして優先させたいのは遠くにいるお客様にも届けることができるということだ。
苦楽園、芦屋、岡本、六甲、どれもいい街なのがありがたい。
今日、実際に知り合いが六甲店でランチボックスを買ってくれてうれしかった。
作りたての美味しさよりも、利便性や時間のなさが優先される時代であることも否めない事実。
頑なにこだわるのもいいけど、時代に適応する柔軟性もまた大事で、自分の中でどうバランスをとるかが重要だと思う。
美味しく食べれる範囲で、遠くまで届ける。
お客様と直接のやりとりはできないけど、たとえ遠くても作った料理を食べるというやりとりは生まれているので、これもまた料理のいいところだ。

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