それぞれ違うお客様同士が料理について褒め合うという三者の構図にむずがゆしさを感じながらもこれはネタになるぞと注意深く耳をそば立てる。
前菜の一部である茄子とズッキーニをボロネーゼでからめて粉チーズをかけたものにいたく感動している様子。
いつものように当たり前にしている作業が、そんな些細なひと手間を喜んでもらえることが、何気ない日常に新しい発見をくれる。
繰り返すほどに慣れていくので意識をしなくてもできるようになっていく。
自分の得意には自分で気づけない、他者評価によって才能が見つかるというのはよく聞くはなし。
見ている世界は同じでも、捉え方は人の数だけそれぞれに違う。
赤は赤でも人によって認識してる色がまったく同じとは限らない。
料理はお客様から見えないところにかけている時間が長い。
手を抜くこともできるけど、なんとなくもっとよくなることを見て見ぬふりはできない。
ただそれだけのことで、そんな些細なことで、お客様の感動は少しばかり増す。
当たり前にやっていたことを肯定されると今までの道筋が自信につながる。
反対に料理のひと手間に何も感じない人もいるだろう。
それは料理に手間がかかっていることを知らないからだ。
料理を作ったことのない人は想像しようがない。
だから女性の方が幾分、料理に奥行きを感じることができる。
何を見て何を感じるかは、受け手の体験と知識次第。
飛行機の運転技術と違って、料理は身近にあって誰もが毎日関わっていること。
だからこそお客様の目は厳しくもなるけど、ちゃんとわかってもらえた時のよろこびは大きい。