味が落ちるとは

先日お客様とお話をしていて、あるお店の味が落ちたから足が遠のいたと言っているのを聞いて、味が落ちるとは何が原因なんだろうと考えてしまった。

それは決して人ごとではなく自分のお店もそのように思われている可能性が十分にある。

味の評価は飲食店にとって最重要課題で、多くの人がお店を美味しい・美味しくないで判断する。

人が決断に至るプロセスにはもっとたくさんの指標が複雑に絡み合っているのだけど、やっぱり食事を提供しているだけに味の善し悪しは一番優先されないといけない。

ただ美味しいと感じる気持ちは千差万別で、育ってきた環境や文化が違えば味覚の形成は人それぞれで異なるもの。

万人にとって美味しい料理なんてきっと存在しない。

味が落ちるという表現の中には、何度もリピートしていることが含まれているので、これだけお店が多い現代においてかなり好きなお店であることが窺える。

味覚は体調や気分によっても左右されるけど、何度も通った上で味が落ちていると言われると返す言葉が見つからない。

それだけのプレッシャーにさらされていると思うと他人事だけにもおさまらない。

料理を作るプロフェッショナルとしては、どんな状況であっても安定した味を提供することが求められる。

作り手が変わるようなお店なら仕方がないけど、同じ人が作っているならそう味が落ちるということはないようにも思えるのは自分の認知バイアスなのか。

たまたま体調が悪かったのか気分が乗らなかったのか、とはいえそれを理由にしてしまうと生業としての料理が成り立たない。

飲食店は数も多く、消費者も多いので常にいろんな意見や評価を受けながら営業していることを考えると芸能界と似たようなものかもしれない。

それに飽食の時代、消費者の舌も肥えている。

いかなる意見にも打ち勝つメンタル向上ももはや業務の一貫といっておかしくない。

冒頭のお客様に「店主に味の改善を伝えた方がいいと思いますか」と問われたので、「引き際じゃないですか」と答えておいた。

もう来ない、というアクションそのものがメッセージにもなっている。

*何か考えてほしいテーマがあれば気軽にお声がけください。
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