とけていく境界

料理人は変な人が多いと言われる。

気難しくて、頑固で、コミュ障で、口下手で。

例に漏れず異論はないけど、そのようなイメージが

出来上がってしまったのは、少なからず時代背景や

価値観によるものでもあると思う。

多くの飲食店で、今でこそキッチンなんて言うけど、

昔の厨房と呼ばれる場所は、お客さんがいる場所と、

隔てられていることが多かった。

厨房の中では、教育という名の暴力的な行為があったり、

上下関係の厳しさ、タバコを吸ってる人も普通にいた。

学力が低く、体を使ってでしか働けないような人たちが、

修行という観念の中で労働をしていた。

そんな狭い狭い世界でずっと過ごしていたら、否応なく

その環境と価値観に染まってしまうのも仕方がない。

今はキッチンもコンテンツもオープンなところが多く、

一体感のある雰囲気で、中を見せることが信頼につながり、

料理に集中するばかりではなく、発信もしないといけない。

価値観の変化で、その境界は次第にとけていく。

同じように、凝り固まった価値観の押し付けは、

現代の親子関係や家族の在り方にも色濃く反映している。

毒親や過保護の悩みも多く目にする機会が増えた。

結婚はまだかとか、早く孫が見たいとか、

自分の生きてきた時代に影響を受けた価値観は、

気づかぬうちにこびりついてるものだ。

時代のせいにするのはよくないけど、

仕方がないことでもあるのではないだろうか。

人間というのは意志があるようでないのかもしれない。

テクノロジーの進化で、選択肢が圧倒的に増え、

自由度が増し、多様な人生が選べるようになった。

楽しいことがたくさん溢れている。

自分の世代は、まだそんな柔軟さに対応はできてるつもり

だけど、もっと下の子供たちは生まれた時から

デジタルデバイスがそばにあって、今後の価値観が

どうなっていくのかは想像ができない。

近い将来、子供に「古い価値観を押し付けないで」って、

言われてる可能性だって大いにあり得る。

どんどんといろんな境界がとけていき、

価値観の変化が早くなっているのは確かだけど、

古代ギリシャの哲学が今でも通用するくらい、

人間の本質が何も変わっていないことも確かだ。

おそらく表面的な情報を追いかけるより、

普遍的な真実を習得する方が、どれだけ価値観が

変化しようとも適応できるはず。

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