料理を誰かのために作ったことのある人なら、
「美味しい」というたった一言の言葉だけで、
うれしくなれるという気持ちがわかると思います。
お客様の反応がダイレクトにわかるのが、
サービス業の醍醐味で、給与水準が低いにもかかわらず、
この業界に多くの人が携わっているのは、
お客様からのうれしい一言で満たされるものが大きく、
とても人間的な営みだからこそだと思っています。
言葉をもっと掘り下げてみるならば、
「美味しい」の奥にある状態が何を与えたかが、
本質的に大切な気がしています。
美味しい料理があったことで得れた体験や、
美味しい料理があったことで思い出される記憶。
懐かしい音楽を聴いて、
昔の出来事や風景が思い出されるように、
何かを思い起こすスイッチになりえた時に、
お客様とより深いつながりを感じることができます。
そしてそのようなエピソードを聞けた時、
「産後の鬱の時に食べた味が忘れられない」とか、
「大きな手術の後に料理で元気をもらえた」とか、
「この料理で子供が初めて食べるようになった」等々。
お客様にとって何か大きな出来事のきっかけになり、
記憶の一部として残っている方が、美味しいという
言葉だけよりも、よろこびが大きかったりします。
例えば、コロナ禍にデリバリーで周らせてもらった
お家やお客様は、一回だけの人でも意外と鮮明に
記憶が残っていたりするから、本当に不思議です。
本当の意味での美味しいとは、無意識下で頭や体が
自然に求めた時に出てくる言葉なのではないでしょうか。