最後の挑戦

振り返ってみて普段の営業だけでは飽き足らず、いろんな取り組みをしてきたように思う。
デリバリーをやると言い出したり、完全予約制にしてみたり、いろんな料理のテイクアウト企画をしてみたり、パスタを作ってみたり。
主観ではいくらでもいい解釈はできるけれど、客観的には何がしたいのがわかりづらい統一感のないお店だと思われてもおかしくはない。
周りから見て挑戦とは聞こえのいい言葉だけど、個人的にはどの施策も思うような結果が得られなかった裏返しに過ぎないと認識している。

今までで一番大きな挑戦といえば、お店の枠から出たREATABLEというもうひとつの活動。
コロナが始まる前から構想はあって、ようやく形になってきたものの、まだまだその中で試してみたいことがいっぱいあって納得がいってない状況だ。
そしてコロナ禍という現象を体感してみて、ひとつのことしかできないのは危ういリスクだと感じたのは偶然にも先述の活動と符号が一致した。
なかなか明けないコロナで長年にわたって従事してきた料理の仕事がまったく意味をなさなくなるのではという恐れ。
幸いにも身動きの取れない時間は、物事や将来について深く考えることに費やせた。
ただひとつわかったことは世界は変化し続けていること。
これからの時代は、しなやかに適応していくことが最適解であり暫定解だと思った。
だから行動してみないことには自分事としてわからない。

お客様の応援あってのお店だけど、お客様のためのお店ではないし、期待に応えることは大事だけど、期待に応えることで無理をし過ぎていたら消耗してしまう。
どこまでも自分の人生は自分軸で生きれる方がきっといい。
その辺のバランスの取り方は人それぞれであるけど、自分の特性とお店の立ち位置、これからの社会の在り方を想像すると、同じ場所でとどまり続けるという選択肢は先の理由からも考えにくい。
料理を美味しく作れる人は世の中にたくさんいると思う。
でもお店としての料理を継続できる人はほんのひと握りだと思う。
経営という要素が入るだけで、自分のやりたいことだけをやってるわけにはいかなくなる。
それにしても一人で料理以外のこともバランスよくこなすのは、なかなかの能力を求められるし、できてたのかできてなかったのか目の前の課題には真摯に向き合ってきた自負はある。
10年後、20年後を見据えて今何ができるのか、何をすべきなのか。
そんな問いが常に頭の片隅を離れなかった。

時間をかけて積み上げてきた資源を最大限に活かすためには。
あれこれと考えた結果、お店としてできることは商品開発だと思った。
コロナ禍を経て変化した人々の行動様式、物価の高騰などの外的要因や、今まで歩んできた道のり、一人でできることの限界などの内的なものまでを鑑みて、これからやってくる不確実な時代に対応するために導き出された解だった。
もうこれがお店としての最後の挑戦になるだろう。
やらない後悔よりやる後悔、という言葉があるように、できる限りのエネルギーを注いで邁進しよう。
どんな結果になろうとも残るのは経験と学びだから。

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