人前に立って話すことなんて考えもしなかった幼少期。
先日ちょっとした発表会に、ちょっとだけ登壇して、ちょっとだけ話す機会があった。
できることなら避けていたようなことも、何かのタイミングでやってみようと思うことが時々訪れる。
歳を重ねるごとに苦手なことや嫌いなことが明確になっていくので、どうしても自分で選んだ好きな境界の中に閉じこもってしまう。
そうなると新しい発見や新しい出会いは必然的に少なくなっていく。
そもそも料理人は、特性として内にこもって黙々と作業をしがちな職業だ。
食べ歩きこそするものの、世界の広がる範囲が限られている。
必ずしも世界を広げることが正解ではないけれど、新しい発見は自らが動いてこそ見つかるものだし、そんな人生の方が知識や経験が増えて人としての魅力に深みが出る。
不思議なもので読書やネットで得れる莫大な情報よりも、人と会って得れる情報の方が圧倒的に価値がある。
そう気づいてから、いつも通り料理だけをしていたら世界の狭い自分になってしまうと危機感をおぼえ、人に話を聞く、という苦手な仕事を自らに課したのがもうひとつの活動でもある。
人の意思はどこまでも弱いので、そうせざるを得ない環境を整える方が手っ取り早い。
実際に人と話して得れたインスピレーションは今の考え方や行動にとても反映されている。
居心地のよさも大事だけれど、時にそこから抜け出し何か新しいことを始めるのも大事なことだと思う。
多様性を受け入れることは、きっとそのような意味も含んでいる。
違いを知ることで得れる気づき。
世界は知らないことばかりで溢れている。
負荷をかけた分だけ返ってくるものが大きいのは普遍的なのだろうか。
最終的に人それぞれのバランスによる、という答えに落ち着くのだろうけれど。
勇気。
そんな聞き慣れて使い古された言葉がこの歳になって骨身に染みる。